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2006年06月10日

帰れない二人

今週始めに家族旅行をしてまいりました。
訪問地は長野です。
夫の友人宅へ訪問したのですが、
家主さんはギター工房を営んでいました。
山にある古い民家を改造して住んでいまして、
回りには野草がたくさん生えています。
三つ葉が雑草のように生い茂っている様子を見て、
夫が興奮していました。
三つ葉だけで生きられそうだ、と。
そのギター作りの友人と音楽談議に花を咲かせ、
何曲か弾いてもらいました。
そのうちの一曲が井上陽水の『帰れない二人』でした。
この曲には少々思い入れがありまして、
聴く度にその時の情景が目に浮かびます。
まだ高校生だった15年前のことです。
わたくしは一人暮らしをしておりました。
と言ってもアパートを借りているわけではなく、
自宅に親がいませんでした。
というのも父親が入院しており、
母親はその看病で病院に泊まりこんでいたからです。
父親の体調が優れなくなったのは年末頃からで、
年明けには入院していました。
すぐ退院するだろうと思っていたわたくしは、
見舞いにはあまり行かずにおりました。
一度見舞いに行った時に、
「大して心配もしてないくせに」
というようなことを父親に言われ、それから更に足が遠のきました。
久しぶりに病院を訪れると、
腹に水が溜まり、それを抜くためにチューブが繋がれて、
チューブの先のバックには繊維状のものや、
血が混じった液体が溜まっていました。
そしてげっそりと痩せている様子を見て、
何かおかしいと思っていたら、
姉から父親が末期ガンであることを知らされました。
夜、家でTVを見ていると電話が鳴りました。
「危篤だからこれからすぐ迎えに行く」
叔母からの電話でした。
しばらくして車で叔母が迎えにきてくれました。
叔母は井上陽水が好きで、
車の中ではいつもかかっています。
今日もいつもの井上陽水がかかっていました。
父親が死ぬのか。
何だか現実味がないな。
いきなり言われてもよくわからないな。
死んだらどうなるんだろう。
これから。
色々なことを考えながら、
ふと耳に聴こえてきたのは『帰れない二人』でした。
帰れない二人を残して、か。
もう帰れないんだな。
昔のような日には。
ボーっと外を眺めながら、曲を聴いているうちに病院へ到着しました。
病室へ入ると、父親の兄弟や友人がいました。
父親は少し前に息を引き取っていました。
どうしてもっとお見舞いに来なかったんだろう。
親の死に目にもあえなかったなあ。
あの曲を聴く度に、後悔の気持ちが湧き上がってきます。